以下は、「会員サービスのジレンマ(割引・値引きは上位客向けか疎遠客向けか)」をテーマに、理論と実務の両面から整理したまとめです。実務で使える視点を重視して構成しています。
会員サービスのジレンマ
― 割引・値引きは「上位客」か「疎遠客」か ―
会員サービスにおいて多くの企業が直面するのが、「割引・値引きを誰に向けて行うべきか」というジレンマである。
長年支えてくれている上位顧客(ロイヤル顧客)に報いるべきか、それとも離れつつある疎遠顧客(休眠・離反予備軍)を呼び戻すために使うべきか。
この問いは単純な二択ではなく、目的・業態・顧客構造によって最適解が変わる。
1. 上位顧客に割引・優遇を行う場合の効果とリスク
効果
上位顧客は、売上・利益の大部分を支えている存在であり、LTV(顧客生涯価値)が高い。
彼らに対する割引や特典は、以下の効果をもたらす。
- ロイヤルティの強化
「大切にされている」という心理的満足が継続利用につながる - 競合流出の防止
価格以外の関係性によるスイッチングコストを高められる - 口コミ・推奨の促進
優良顧客ほど情報発信力が高い場合が多い
リスク
一方で、上位顧客への割引には明確な落とし穴がある。
- 本来値引き不要な顧客への利益毀損
割引しなくても購入する層に値引くことで粗利が下がる - 価格基準の形成
「どうせ待てば安くなる」という期待を生む - 不公平感の逆転
特典が“割引一辺倒”だと、関係性の価値が薄れる
つまり、上位顧客への施策は「値引き」よりも「体験・優遇」が本来は向いている。
2. 疎遠顧客に割引・値引きを行う場合の効果とリスク
効果
疎遠顧客への割引は、即効性が高い施策である。
- 再来店・再購入のきっかけ作り
- 在庫消化・短期売上の回復
- 反応データの取得(戻る客・戻らない客の判別)
特に「価格が理由で離れた顧客」には有効で、再接触のハードルを下げられる。
リスク
しかし、疎遠顧客向け割引には長期的な問題が潜む。
- 割引狙い客の固定化
- 上位顧客との不公平感
- 呼び戻してもLTVが低い可能性
割引を行っても一度きりで終わるケースは多く、
「戻すコスト > 得られる利益」になりやすい。
3. 結論:割引の役割は「顧客層ごとに分ける」
重要なのは、上位顧客と疎遠顧客に同じ割引をしないことである。
基本原則
- 上位顧客:値引き最小、非価格価値最大
- 疎遠顧客:条件付き・期限付きの価格刺激
割引は「万能の報酬」ではなく、「行動を変えるための刺激」として使うべきである。
4. 両方行う場合の理想的な比率と考え方
比率の目安(一般的モデル)
- 上位顧客向け施策:70%(非価格)+30%(限定割引)
- 疎遠顧客向け施策:70%(価格刺激)+30%(関係再構築)
※業態により前後するが、「割引の重心」は疎遠顧客側に置くのが基本。
5. 実践的なやり方
上位顧客向け
- 割引ではなく「先行販売」「限定体験」「ランク特典」
- 金額ではなく“扱い”で差別化
- 割引する場合は回数・用途を限定(誕生日・記念日など)
疎遠顧客向け
- 期限付き・条件付きクーポン
- 「今回限り」「復帰特典」と明確に位置づける
- 割引後のフォロー(満足体験→通常価格へ)
6. 会員サービスの本質
会員サービスのジレンマの本質は、「誰を大切にするか」ではなく、
「割引に何をさせたいのか」を明確にしていないことにある。
- 上位顧客には「関係を深める」
- 疎遠顧客には「行動を変える」
この役割分担ができたとき、割引はコストではなく戦略になる。